ショッピングの魅力

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纏足(てんそく)の靴

私の体験的ショッピング考



 骨董品が続くが、ついでに、もう一つ私が買った骨董品(多分?)の話をしよう。それは、あの纏足(てんそく)用の靴である。

 その昔、中国の何処かで纏足をしていた婦人が履いていたという靴である。もちろん、非常に小さく異様な形をしている。昔の中国の風習で、上流社会で生まれた女子は足を幼児の頃から布で堅く包み込んで成長を止め、小さく変形させていた。全く残酷な話だが、まともに歩けないほど小さくするのである。歩けなくても靴は履く。殆ど飾り物のようなものだ。

 この纏足の靴はハリウッド・ロードではなく、1987年の暮れにチムサアチョイ(尖沙咀)のニューワールド・センター(新世界中心)の中の、ある骨董屋で手に入れたものである。例によってウインドウ・ショッピングをしていて見つけたものだが、始めて見る尋常ではない形と、手の込んだ綺麗な刺繍にひかれて衝動買いをしてしまったものである。

 その辺りで売られている物は、高い家賃を反映してべらぼうに高い。値札についていた値段はいくらだったか忘れたが、私の記録によると大枚香港ドル2300を支払っている。値切りに値切ったことは想像できるが、それでも当時のレートで4万円近い。しかし、その時、私の頭には「それだけ出せば最高の紳士靴が買える」という発想はない。手に入れたいという衝動に甘んじて従った行動で、全く未練はなく満足そのものである。 例によって、「何処の、どんな高貴なご婦人が履いていたのだろう?」とその薄汚れた、ヨチヨチ歩きの幼児が履くような小さな靴を、手のひらにのせて空想を巡らすための得難い素材なのである。

 さて、その靴の大きさだが、先端からかかとまで、底で計って約13センチである。しかし、底の形は全く異様としかいいようはない。一番幅の広いかかとのところで約5センチである。5センチ幅のかかとから、先に行くほど急激に細くなり、先端は鋭角に尖っている。布製だが踵には木質のものが入っているようだ。しかし、全く擦り減ってはいない。底も布製だが丹念に刺しこんであって、堅い。妙なのはその靴の先端部分から殆ど真上に、約6センチの高さで足に被さる部分が立ち上がっている。もちろん、纏足の人の足を見たことはないが、足先とか甲の部分は完全に圧縮されてしまって、小さな握り拳のような足だったのだろうか?。くる日もくる日も気も狂わんばかりの苦しみであったろう。恐ろしい風習ではある。

 その靴には赤、紺、薄茶、それに、部分的に薄いブルーと黒の布地が使われていて、要所要所は金糸で飾りたててある。特に靴の先の尖った先端にある小さな花の刺繍と、足に被さる前面の目立つ部分の、蝶のようにみえる艶やかな刺繍は非常に印象的ものであった。それにひかれて買ってしまったようなものである。とにかく可愛らしく、また、綺麗でありながら、同時に異様な風体の靴なのである。

 今、これを冷静に見ると、どうも贋物臭いのである。薄汚れてはいるが、その靴には命が感じられないのである。つまり、纏足の足が毎日まとっていたことを感じさせるような生活の匂いがないのである。100%そうだとは断言できないが、骨董的価値は全くないような気がするのである。

 しかし、私にとっては、それが本物であろうと贋物であろうと、どちらでも良いことなのである。前にも述べたが、それを人に転売する意図は全くないからである。もし、贋物であっても、限りなく本物に似せて作られた労作であることには間違いなく、負け惜しみではなく私はそのすばらしいワークマンシップに敬意を表するのである。しかし、それはさておき今でも時々眺めているが、空想をめぐらす時には、その靴は間違いなく本物になっているから面白い。



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