シシリアの旅
シシリアの旅 (その2)
カタニア、シラクサ
キュクプロプスの岩礁 |
翌3月9日早速訪ねたのは「キュクロプスの岩礁」です。
カタニアから海に沿って北に向かうと、アーチ・カステッロを過ぎて、アーチ・トレッツアの入口の海に「キュクロプスの岩礁」が横たわっています。ギリシャ神話によれば、オデュッセウスに目に杭を打ち込まれた一つ目の巨人キュクロプスが怒って、オデュッセウスの船を目掛けて投げた岩石だ、と伝えられています。
ゲーテはこの名勝を宿(金獅子亭)の主人への不信感からついに見ることはありませんでした。この宿がどこにあったのか、今は知る人もありません。
ゲーテが訪ねたビスカリ宮殿は今も残っており、サン・ニコロ教会の巨大なオルガンは修理の現場を見ましたが、「修理には二年というが、四年はかかろう」という話でした。
カタニアの街は、一言で言えば、どこへ行っても工事中。
大聖堂(カテドラーレ)の中には、電動工具の騒音が響き渡っていました。巨大オルガンのあるベネディクト派の修道院に付属したサン・ニコロ教会も、オルガンを解体、修理しています。ローマ劇場も工事中のため立入り禁止。
人口33万人、シシリア第二の大都市なのに英語のパンフレットがありません。
安くて設備のよいホテルも見当たりません。折角空港があるのに、これでは観光客はタオルミーナ、シラクサ、アグリジェントへと直通バスで素通りしてしまいます。
しかし、今進められている工事が完成する頃には、観光の起点として再生する潜在能力を十分にもった街となるでしょう。
その強みは縦横に張り巡らされたバスによる交通網です。
シラクサまで片道8000リラ、往復13000リラ。エンナ往復18500リラ。アグリジェント片道19000リラ。18000リラがおよそ¥1000ですから、日本では考えられない安さです。
鉄道は往復切符を買っても片道の二倍ですが、バス代は往復すると割引されます。
オルティジア島の岬 |
パレルモからセジェスタ、セリヌンテのギリシャ神殿を訪ねたゲーテは、シシリアの南の海岸を東へシャッカを経てアグリジェントまで来ますが、ここから小麦の産する農業地帯を見るために北へエンナに向かいます。
ゲーテの言い訳は「この立派な町(シラクサ)も今はその光輝ある名前以外には何も残っていないということを知っているからである」
そのシラクサは北の考古学地区と南の旧市街のあるオルティジア島という二つの観光の目玉をもっています。
考古学地区の東にあるのが、パオーロ・オルシ考古学博物館で、入口近くにある「ランドリーノのヴィーナス」が有名です。この名は発見者に因んだもので、和辻哲郎の「イタリア古寺巡礼」では、「アナディオメネのヴィーナス」と呼ばれています。強いて言えば、余りにもつやつやに磨かれた肌が微妙な陰影を奪っているのが欠点でしょうか。
和辻哲郎は次のような感想を述べています。「この像の前に立ってながめていると、ローマの<カピトリノのヴィナス>よりもあるいはこの方がいいかも知れない、という気持ちがした」
シラクサのギリシャ劇場 |
この博物館の建物を挟んで南にはマドンナ・デッレ・ラクリメ礼拝堂があります。1953年にここの聖母マリア像が涙を流すという奇跡があり、約90メートルの高さのとがった三角形の近代的な建物が建てられました。
博物館の北側には、サン・ジョバンニ・エヴァンジェリスタ教会があり、カタコンベへの入口にもなっていますが、3月15日からオープンするとのことでした。シシリアの観光シーズンは三月中旬から四月にかけて始まるようです。
シラクサのオルティジア島旧市街地 |
南のオルティジア島には旧市街があり、アテネ神殿を建て替えたドゥオーモを中心に街が拡がっています。アレトゥーザの泉はギリシャ神話の舞台です。川の神アルフェオに追いかけられたニンフのアレトゥーザはイオニア海を横切って逃げ、この島でアルテミス女神によって泉に変えられたと伝えられています。また、豊穣の女神デメテルが「娘のプロセルピナが冥界のハデスにエンナの近くのペルグーサ湖で誘拐された」とアルトゥーザから教えられたのがこの泉です。パピルスの茂った小さな泉で、海岸の遊歩道に沿っており、そこからの眺めがまた格別です。
(2001年10月号)