ドイツ観光局が「ウェビナーシリーズ2024」を実施 ~ 付加価値を意識したツアー造成を
ドイツ観光局が、2024年3月から8月にかけてウェビナーシリーズを実施した。ウェビナーは月に一度のペースで定期的に行われ、月ごとに異なるテーマを設定。各回およそ1時間、ツアー造成および販売のヒントとなるドイツの観光スポットや最新情報を紹介した。
各回のテーマは、
第1回(3月27日実施)「2024年ドイツ重要テーマと人気都市&観光テーマ」
第2回(4月24日実施)「ドイツの世界遺産とモデルルート」
第3回(5月30日実施)「ドイツのお祭り」
第4回(6月27日実施)「職人技が光るドイツの伝統工芸」
第5回(7月30日実施)「ドイツの城」
第6回(8月29日実施)「サステイナブル&ファムレポート」
ドイツ観光局がウェビナーをシリーズで実施するのは、今年で3年目。主として旅行会社のプランナーを対象にしたものだが、個人旅行でも役立つ情報が満載。本記事では、ウェビナーで紹介された内容を整理してご紹介。今後のツアー造成、ドイツ旅行の計画に活かして欲しい。
価格が上がっていても申込みたくなる商品造成を
2024年で3年目を迎えたドイツ観光局のウェビナーシリーズ。冒頭で挨拶をしたドイツ観光局 日本支局長の西山晃氏は、コロナ明けから今年4月で丸1年が経過したが、世界を取り巻く状況や経済的要因により、日本のアウトバウンドの戻りが遅れていることに言及。その日本の戻りの遅さは、世界では共通認識となってしまっていると警鐘を鳴らす。
西山氏はまた、こうした状況を打開するためには「消費者の行動を促す啓蒙活動が重要」と述べ、「価格が上がっていても申込みたくなる商品の造成を」と、視聴しているプランナーたちに呼びかける。
初回ウェビナーでは、2024年のドイツ観光局が掲げるイヤーテーマや、人気都市&観光のランキングに加え、ドイツ観光局が2023年秋に「ドイツフェスティバル」の会場で実施したアンケート調査の結果についてもレポートした。
このアンケートは「行ってみたいドイツの観光地」「行ってよかったドイツの観光地」「一年以内に海外旅行の予定があるか」の3つの質問で行われ、5万人を超える来場者のうち2388名から回答を得られたという。
そのアンケートの総評は、以下(図)の通り。回答には172の都市名と19の観光テーマが集まり、驚くことにそれらはドイツ全16州の都市がカバーされていた。
アンケートを実施した場所がドイツ好きが多く集まるイベント会場という点を鑑みても、この結果からは日本は非常に成熟したマーケットであることが分かる。
これはツアーを造成・販売する側にとっては、その消費者の需要に応える、満足させるだけの知識やプロダクトが求められる(必要とされる)と捉えられる。
ドイツの世界遺産とモデルルート
4月に実施された第2回のテーマは「ドイツの世界遺産とモデルルート」。この世界遺産は、ドイツ観光局が2024年に掲げているキャンペーンテーマの一つでもある。
本回では、ドイツ観光局 マネージャー・マーケティング&セールスの高尾舞弓氏から、「ユネスコ世界遺産の概要・目的」や「登録基準」「登録までの流れ」など、基本的な部分から「世界遺産とツーリズムの親和性」に至るまで丁寧に説明が行われた。
ひと口に「世界遺産」といっても、その中には「自然遺産」「文化遺産」「複合遺産」の3種類がある。現在ユネスコに登録されている世界遺産の総数は1199。ドイツは2024年9月現在、イタリア、中国に次ぎ、世界で3番目に多い54の世界遺産がある。
日本人の世界遺産好きは有名だが、ドイツにある世界遺産は「城&宮殿」「文化&歴史」「自然&庭園」「産業遺産」「建築&デザイン」「教会&修道院」「歴史的旧市街」と多岐にわたり、ツアーのプロダクトとしても非常に扱いやすいものが多いのが特徴となっている。
ドイツ観光局ではウェブサイト上でドイツの世界遺産を盛り込んだ、8つのテーマ別モデルルートを紹介しているが、高尾氏はその中から「カルチャー」「ウェルネス」「産業文化」「ファミリー」の4つをピックアップし、ハイライト情報を加えてモデルルートを紹介した。
いずれも12日間を前提としているが、旅行日数によってアレンジは可能。とりわけ文化にふれる「カルチャー」のルートは、日本人にも馴染みいハイライトが豊富なので、ツアー造成にも応用しやすい。ウェブサイト上ではテーマ別を選択すると、地図でルートが確認できるようになっている。
《参考》世界遺産 テーマ別モデルルート
URL | https://www.germany.travel/en/campaign/world-heritage/home.html |
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付加価値を意識したツアー造成のすすめ
ドイツ観光局では、昨今の世界的な状況を鑑み、何度も同国へ行くのではなく、一度の旅行でできるだけ長く滞在する《Stay Longer》と、付加価値を意識したツアー造成を呼びかけている。
中でも無料で楽しめるものが多い「祭り」は、地域伝統(異文化)が体験できるだけでなく、地元の人々とのふれあいを通じ、特別で、旅の忘れがたい思い出に。「ツアー行程に一つ加えるだけで特別感が出る」と、高尾氏は説明する。
ドイツ全土で約9800もあるお祭り。第3回ウェビナーでは、地域によって呼び名が変わる春の「カーニバル」から、冬のハイライト「クリスマスマーケット」まで、各地で行われる民族祭や伝統行事、各種イベントなど、ツアーに組み込める様々なドイツのお祭りが、季節を追って紹介された。
中でも近年、ネット上で話題となっているのが「ヴァルプルギスの夜」。これは魔女伝説で有名なハルツ地方の町ヴェルニゲローデで、年に一度行われている魔女の祭りで、会期は固定(4月30日)。日本のゴールデンウィーク期間中にもあたることから、ツアーにも組み込みやすい。
代表的な「春」のお祭り
・ カーニバル/ファッシング/ファスネット(冬の終わりと春の始まりを祝う祭り)
・ フリューリングスフェスト(子供も楽しめる春のビール祭り)
・ マイスタートゥルンク(ローテンブルク歴史劇)
夏は、ハイライトに華やかなパレードが行われるお祭りが多いが特徴だが、ここでの推しは7月に開催される「カルテンベルク騎士祭」。これはミュンヘン郊外にあるカルテンベルク城で開かれる世界最大の騎士ショーで、非常に迫力がある。スタートの時間は遅めの設定だが、最寄駅(Sバーン)から送迎バスの運行もある。
代表的な「夏」のお祭り
・ キンダーツェッヒェ(無形文化遺産)
・ ハノーファーの射撃祭(500年の歴史)
・ キールウィーク(世界最大のヨットスポーツの祭典)
・ ラインの火祭り
・ カルテンベルク騎士祭(世界最大の騎士ショー)
・ ザッツファイ城 騎士祭り(騎士の馬術試合)
・ ローテンブルク帝国自由祭り
秋は収穫祭の季節ということもあり、ミュンヘンのオクトーバーフェストに代表されるビール祭りや、ワイン祭りが各地で開かれているが、お酒が飲めない人でも楽しめるのが、ベルリンとライプツィヒで行われている「光の祭典」。
2005年にスタートしたベルリンの「光の祭典」は、市内にあるモニュメントでプロジェクションマッピングが行われる。ベルリンの壁崩壊から35周年に当たる2024年は《Celebrating Freedom 自由を訴える》がテーマ。
一方、ドイツを国家統一に導いた平和デモに由来するライプツィヒの「光の祭典」は、「平和への願い」が込められている。
代表的な「秋」のお祭り
・ カンシュタット・フォルクスフェスト(第2のビール祭り)
・ ワイン祭り
・ ヴルストマルクト(世界最大のワイン祭り)
・ 光の祭典(ベルリン)
・ 光の祭典(ライプツィヒ)
アドヴェントの季節には、ドイツ各地で3000ものクリスマスマーケットが開かれる。
ニュルンベルク、シュトゥットガルト、ドレスデンは、世界三大マーケットして知られているが、古城でのマーケットやラヴェンナ渓谷の橋の下に立つマーケット、中世のマーケットも人気がある。
今回はエスリンゲンの中世風クリスマス(松明行列)や、エルツ山地の「鉱夫のパレード」なども紹介された。ひと口にクリスマスマーケットと言えども、地域によって雰囲気が異なるので、楽しみは尽きない。
本場で見る、知る、体験する ドイツの伝統工芸
マイスター制度が息づくドイツは「職人の国」。何世代にも渡り引き継がれる技術と、そこから生み出される職人の技は工芸品にとどまらず、食の世界にも広がっている。
大量生産の真逆をいくマイスターの世界は、サステナブルにも繋がるだけでなく、「それらを本場で見て、知って、体験することは、重要な旅のコンテンツにもなる」と、高尾氏は訴える。
ドイツの代表的な伝統工芸品といえば、黒い森の木で作られる「カッコー時計」やキャンドル、エルツ産地の木製工芸品(クリスマス玩具)などを思い浮かべるが、実はヴァイオリン製作でも知られ、ガルミッシュ=パルテンキルヒェン近くの町ミッテンヴァルトには、9軒の弦楽器製作工房がある。
これは、17世紀にマティアス・クロッツという人物が、イタリアで名匠の下でヴァイオリン製作技術を学んで村に持ち帰ったことに由来している。
ゲーテが「生きた絵本」と呼んだミッテンヴァルトは、外壁に描かれた色鮮やかなフレスコ画が印象的な町でもある。町にある州立ヴァイオリン製作学校は、国際的にも知名度が高い。
マイスターの技術が息づくものには、「伝統の食文化」の中にも数多く見られる。代表的なのは、2014年に世界無形文化遺産に登録された「ドイツパン」。近年、日本でのドイツ食品の人気は右肩上がりで、ドイツパンを扱う店は確実に数を増やしている。
老若男女関係なく愛されている焼き菓子「バウムクーヘン」をはじめ、ドレスデン発祥の「シュトレン」も、クリスマス菓子の定番商品として、日本でもすっかりお馴染みになった。ドイツでは、そうした本場の味わいが体験できる。
また、マスタードの故郷モンシャウには、23種類のマスタードを扱うショップがあり、併設レストランでランチが楽しめるほか、リューベックにはショップやカフェ、さらに博物館が併設されたマジパンの老舗「ニーダーエッガー」、各地にあるビール&ワインの醸造所なども、ツアーのプロダクトにも活用できる。
「始めた人がいて、歴史があって、それを紐解いていくのも楽しい」「アクセントのあるツアープランにできる」と、高尾氏は説明する。
ドイツ伝統工芸品と言って忘れてはならないのが、美しい陶磁器。第4回ウェビナーには「マイセン磁器工房」の Denise Zippel氏が登壇し、磁器工房で1日を過ごすプランなどを紹介した。
1710年にアウグスト強王が築いたドイツ最古の城アルプレヒツブルクで誕生したマイセン陶磁器は、ヨーロッパで初めて硬質磁器を生みだしたドイツの名窯。その工場では、舞台裏が特別に見学できるツアーをはじめ、アーティストになった気分で自分だけのマグカップや皿を描ける「DIY ワークショップ」などを通じ、「五感で満たす磁器の秘密」が体験できる。
さらにザクセン地方の名物料理などをマイセン磁器で提供するカフェ&レストランが併設されているほか、ミュージアムの見学やパーソナルショッピングを楽しむこともできる。
ドイツの城は、付随する伝統や体験と組み合わせて販売を
威風堂々と聳える城郭、煌びやかな宮殿などの「城」は、国によって刺さるテーマは異なるが、ドイツ観光のハイライトでもある。第5回のウェビナーでは、そうしたドイツの城を紹介するとともに、訪問者が多い&人気の城などがランキング形式で紹介された。
日本の旅行者にとって、ドイツ旅行における重要なテーマが「都市&文化」「観光街道」「食」、そして「城&宮殿」。ツアーテーマの第1は「世界遺産」だが、「城」はそれに次ぐ第2位になっている。
正確な数はわかっていないが、ドイツにある城の数はおよそ25,000。城塞跡までを含めると、その数は30,000を超えるという。そうした「城」をツアーのコースに盛り込むということは、大都市ではなく、小さな町を旅するきっかけとなる。高尾氏は「付随する伝統や体験と組み合わせた販売が重要」と説明する。
一口に「城」といっても、ドイツではその呼び方は異なる。いわゆる日本の天守閣に相当するのが城塞(独語:ブルク)、権力と富の象徴となった美しい城館(独語:シュロス)、そして支配者の公邸で、権力と芸術、学術の場ともなった庭園付の宮殿(独語:レジデンツ)の、大きく3つに呼び分けられる。
この回のウェビナーでは、2つの「人気の城 TOP10」が紹介された。一方は国籍に関係なく2023年度の統計(訪問者数)に基づくもの(A)で、もう一方はドイツ観光局 日本支局の公式X で行った投稿キャンペーン「#ドイツの城」に基づくデータ(B)となっている。
それぞれのTOP3は、以下の通り。
A 訪問者数別ランキング(国籍関係なし)
① ハイデルベルク城 訪問者数:960,000人
② ノイシュヴァンシュタイン城 訪問者数:851,000人
③ シュヴェッツィンゲン宮殿 訪問者数:776,000人
B ドイツ観光局 公式X #ドイツの城 投稿キャンペーン(日本)
① コッヘム城(モーゼル川沿い)
② マルクスブルク城(ライン川沿い)
③ ノイシュヴァンシュタイン城(シュヴァンガウ)
この結果から、高尾氏は「日本人が求める城は、山の上に建つ城館のようだ」との見方を示す。
ここに挙げた6つの城の中で、注目したいのが《訪問者数別ランキング》で3番目に入っている「シュヴェッツィンゲン宮殿」。日本のツアーではあまり見かけない城だが、実は庭園や春の音楽祭で有名な宮殿で、桜が見られる花見スポットなのだという。
また、この城の周辺は、最近、日本のスーパーマーケットやレストランのメニューでもよく見かけるようになったシュパーゲル(ホワイトアスパラガス)の産地でもあることから、春のツアーに組み込むことで、城と音楽祭、お花見、季節の味覚(ワインとのペアリング)と、春のドイツの魅力がギュッと凝縮されたようなツアーが造成できる。
その他にもツアーの素材として古城ホテルや、そこに併設されたレストランなどが紹介された。
SDGsの要素は「レジャーとして楽しむプランの中にさりげなく」がポイント
最終回のテーマは「サステイナブル」。この回ではドイツの地方都市の魅力とあわせ、今年7月に実施したFAMツアーで訪れた中央~北ドイツの各地域をレポート方式で紹介。後半は、ルフトハンザ ドイツ航空から登壇し、同社のサステイナブルな取り組みや、最新情報が紹介された。
言わずと知れた「環境の国ドイツ」。環境都市フライブルクは、以前から自治体や企業の視察ツアーの旅先に選ばれていたが、「SDGs」はコロナ後、日本でも広く浸透していることを受け、ドイツ観光局ではツアー造成においては「レジャーとして楽しむプランの中にさりげなくSDGsの要素を」と呼びかけている。
ドイツ観光局が掲げるSDGsの要素は、大きく《地方の魅力》と《Stay a little bit longer》の2つ。
ドイツには地方都市がたくさんあり、それぞれに文化・芸術・特色があり、それがドイツ観光の魅力ともなっている。「ドイツ各地の文化・芸術に触れ、理解すると同時に、各地の名物や食文化も体験して欲しい」と語る。
また、もう一方の《Stay a little bit longer》は、一つの町に少し長めに滞在をし、地域の魅力を深堀。近郊の町に足を延ばしてみたり、自然の中でハイキングなどを楽しみ、「メジャーなスポットだけを見て次の町に移動する旅のスタイルでは得られない、ドイツの魅力を発見して欲しい」と呼びかけている。
後半で登壇したルフトハンザドイツ航空の村上氏からは、同社のCO₂削減に向けた取り組みについて紹介された。
ルフトハンザドイツ航空では、鉄道事業者との協力によりネットワークを拡充した「ンターモーダリティ」をはじめ、最新鋭機材の投入、効率的な運航業務、さらに破棄物とプラスチックの削減等に尽力しているが、中でも近年、力を入れているのが持続可能な航空燃料(SAF)。これは使用済み食用油を裁量したバイオマス原料に由来する次世代燃料で、CO₂排出量を80%削減。今後は、2030年までに2019年比でCO₂排出量を半減、2050年には完全ゼロを目指す。
また、村上氏は《カーボンニュートラルな空の旅》の実現に向け、欧州域内の路線で導入している「グリーン運賃」にも言及。これはCO₂排出量を運賃に転嫁したもので、20%をSAFに、80%を気候変動対策への投資にあてるという。
1970年代から80年代にかけて、工業の発展に伴う酸性雨でドイツ各地の森林で立ち枯れ、それを機に国を挙げて森の再生と環境問題に、積極的に取り組んできたドイツ。
ドイツ観光局でもサステイナブル(SDGs)を意識したツアーの造成を呼びかけ、自然の中でのアクティビティなどの素材に目を向けるよう促しているが、実はドイツでは都市部でも低炭素な社会を実現している。
ルフトハンザドイツ航空の村上氏によると、CO₂の排出量は鉄道1に対して飛行機は10。その飛行機を使わないと海外旅行ができない日本人にとっては、1回の旅でいかにカーボンオフをするかという課題が残るが、旅先にサステイナブルに積極的に取り組む国を選んだり、航空会社を利用するだけでカーボンオフに繋げることができる。
そうした意味においては、例え国際空港がある大都市への旅行であっても、旅先にドイツを選ぶだけで《地球に優しいSDGsな旅》ができる、と考えられないだろうか?
視聴できるのは旅行業界の関係者のみとなるが、ドイツ観光局ではここで紹介した2024年度のアーカイブ動画をYouTube上で限定公開している。
その視聴リンクを知りたい、また次年度のウェビナーシリーズに参加したいという方は、ドイツ観光局 マネージャー・マーケティング&セールスの高尾舞弓氏まで、ぜひお問い合わせを。