ドイツ観光局、2025年は「メルヘン街道50周年」と「J.S.バッハ没275周年」で訴求

(左から)ドイツ観光局の高尾氏、ルフトハンザドイツ航空の澤田氏、
ドイツ観光局の西山局長と武井氏
ドイツ観光局 アジア地区統括局長/日本支局長の西山氏によると、2024年にドイツを訪れた外国人旅行者の延べ宿泊数は8529万泊。2019年比で96%となり、ほぼコロナ禍前の水準を取り戻した。
一方、2023年春の水際対策の全面解除で、早期回復が期待された日本のアウントバウンド市場は、依然として逆風の中。ウクライナ問題の影響による「ロシア上空封鎖」に「ドイツ国内のインフレ」が重なり、さらに「歴史的円安」も長引き、ドイツへの日本人旅行者は2019年比の59%に留まっているのが現状だ。
この回復の遅れには、100%の需要回復に至っていない、日独間航空便の座席供給数も影響している。
とはいえ、2023年比で見ると112%のプラスに転じていることから、ドイツ観光局では引き続き「日本は緩やかながらも、順調に回復している」との見解を示しており、2025年については2024年比で120%、2019年比で70%程度の回復になると見通している。

ドイツ観光局アジア地区統括局長の西山晃氏
高騰する旅費。旅行会社が主催する日本発着のパッケージツアーは、2019年比の倍近くまで跳ね上がり、もはや中間所得層にとっては、ほぼ非現実になったドイツ旅行。
そうした中、ドイツ観光局が一般消費者に向けて積極的に展開しているのが、インスピレーションキャンペーンだ。
これはソーシャルメディアやクロスメディアを通じたキャンペーンで、その背後には「今はまだ難しくても、その時が来たら是非ドイツへ」という、中期的な需要喚起のメッセージが込められている。
そうした中で、とりわけ大きな成功を収めているのが同局のソーシャルメディア。今年は従来から展開しているXとLINEに加え、新たに日本語に対応したInstagramの運用もスタートした。2024年、Xでのオーガニックインプレッションは3500万を突破している。

大きな成功を収めているドイツ観光局のSNS
ドイツ観光局が、2025年のグローバルキャンペーンに掲げたテーマは、次の4つ。
従来から展開している持続可能性をテーマにした「FeelGood」と、風光明媚な自然とサステイナブルな休暇に焦点を当てた「Embrace German Nature」に、「Cultureland Germany」と「Seasons’ Greeting」が加わった。
日本では、この中でも特に訴求力の高い「Cultureland Germany」と、クリスマスマーケットを意識した「Seasons’ Greeting」にフォーカスすると、西山氏は説明する。

2025年のグローバルキャンペーンテーマ
それを後押しするのが、2つの大きな周年行事「メルヘン街道 開設50周年」と「J.S.バッハ没275周年」である。
「メルヘン街道」開設50周年
「グリム童話」は、ヤコブとヴィルヘルムの兄弟がドイツや周辺地域の民話を収集し、再編した民話集。それが世界中に広まるきっかけとなった『子供と家庭の童話集』の初版本は、ユネスコの世界記憶遺産に登録されている。
今年50周年を迎えた「ドイツ・メルヘン街道」はドイツ北西部、グリム兄弟が生まれたハ-ナウからブレ-メンまでの600キロを結ぶ、ドイツを代表する観光街道。
グリム兄弟が活躍し、ふたりがメルヘン(昔話)や伝説、聖人説を収集した大小50の町々で構成され、昔ながらの自然景観、魅力的な木組みの家々、城塞やお城が点在するこの街道には、今なお〈メルヘンの世界〉が広がっている。
メルヘン街道でシュバルムシュタットでは『赤ずきんちゃん』、ザバブルク城では『いばら姫』、トレンデルブルク城では『ラプンツェル』、ラインハルトヴァルトでは『騎士ディ-トリッヒ』、ハ-メルンでは『笛吹き男』など、個性的なキャラクターに出会ってきた旅人を、終着地で『ブレ-メンの音楽隊』が出迎える。

ハーナウにあるグリム兄弟の像
© Stadt Hanau
日本で「メルヘン街道」のプロモーションがスタートしたのは1976年のこと。誰もが知る童話というのはもちろんのこと、当時人気を博した女性誌が組んだ大特集が追い風となり、大きな注目を集めた。
中世ドイツの世界観がリアルに体験できる旅先として、とりわけリピーター層に好んで選ばれている観光街道である。
ドイツ観光局では2025年、この「ドイツ・メルヘン街道」の開設50周年を、グローバルキャンペーンテーマの「Cultureland Germany」と「Embrace German Nature」に連動させる形で、グリム兄弟の文化遺産と街道沿いの観光魅力に焦点を当てた特別プロモーションを展開する。
Spuren der Brüder Grimm - Deutsche Märchenstraße
配信元:Deutsche Märchenstraße e.V./YouTube
13世紀に建造された「トレンデルブルク城」は、ドイツ初の古城ホテル。グリム童話や伝説にちなんだガイドツアーも実施されており、5月29日には「メルヘン祭」、11月29日には「光の魔法」が予定されている。また、エーダー湖を見下ろす11世紀建造の「ヴァルデック城」も、メルヘン街道を代表する高級古城ホテルで、眼下には童話の世界が広がっている。
ページをひとつ捲る(町や村を移動する)ごとに、新しい物語が繰り出すメルヘン街道。
この街道に潜むメルヘンたちは、夏になると屋外劇場、人形劇、マリオネット劇といった様々な催しで息を吹き返すことでも有名だ。また、メルヘンのテーマ週の楽しみや、農家風料理から侯爵風饗宴、人気の高い中世風料理まで、舌でもメルヘンが堪能できる。
メルヘンの世界は果てしない…

ドイツ初の古城ホテル「トレンデルブルク城」
© DZT/Florian Trykowski
メルヘン街道には世界遺産も点在している。中でも有名なのがブレーメン市庁舎だが、街道の途中にあるカッセルには、ヨーロッパでも最も大きいと言われる世界遺産の丘陵公園「ヴィルヘルムスヘーエ城公園」があり、ここで冬の間に行われるイルミネーションも、幻想的な世界へと誘ってくれる。
6月から9月にかけては第1土曜日の晩に「水の芸術」というサンセットライトアップも行われる。
余談だが、ここで触れたカッセルは、5年に1度開催される「ドクメンタ」の開催地としても知られている。
「ドクメンタ」はヴェネツィアのビエンナーレと並ぶ大規模な現代アートの祭典で、次の開催は2027年。69年の歴史で初めて芸術監督に黒人女性が選ばれたことで、早くも注目を集めている。
他の国際展に比べ、常に鋭いテーマ性を掲げている「ドクメンタ」は、戦後のドイツを「文化の国」へと押し上げた。イノベーションが生み出される背景には、メルヘンが何か関係しているに違いない…
そう考えるだけでも、何やらワクワクしてくるから不思議だ。

ライトアップされたカッセルの世界遺産「ヴィルヘルムスヘーエ城公園」
© Kassel Marketing GmbH/Can Wagener
そんなメルヘン街道のイノベーションDNAを感じさせる面白い物が、今回のプレス発表会でお披露目された。
それはゲーム型ウェブコンテンツの「Grimm’s Quest」。これは『赤ずきん』『カエルの王様』『ラプンツェル』『ヘンゼルとグレーテル』の物語をモチーフにした無料のオンラインゲームで、日本語にも対応。ミニゲームを楽しみながら、各地域の観光情報が、バーチャル体験できるようになっている。
西山氏は『ユーザーが、リアルなドイツ旅行へ足を運ぶきっかけにしたい』と語っている。

オンラインゲーム「Grimm's Quest」はドイツ観光局の特設ページ、
もしくはメルヘン街道の公式ウェブサイトから利用できる
50 Jahre Deutsche Märchenstraße – Auf den Spuren der Brüder Grimm
特設ページ |
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Deutschen Märchenstraße
公式サイト |
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J.S.バッハ没275周年 ~ ドイツ音楽の旅へ
2025年、もう一つの重要な周年行事が「J.S.バッハ没275周年」。2025年は、〈音楽の父〉と呼ばれるヨハン・セバスチャン・バッハ(以下、バッハ)の没後275年にあたる。
ドイツ観光局ではこれを受け、グローバルキャンペーン「Cultureland Germany」と連動させ、バッハをテーマとした文化観光プロモーションを展開すると発表した。

J.S.バッハが眠るトーマス教会(ライプツィヒ)
当編集部撮影
6月2日に始動したドイツ観光局の特設サイト「バッハのゆかりの地を巡る」では、チューリンゲン州、ザクセン州、ザクセン=アンハルト州の主要都市を紹介。同局のナレッジグラフを活用し、ドイツ文化に興味のある旅行者へ的確な情報を提供する。
各地で行われる音楽祭、コンサート、展覧会などの情報も簡単に入手できるので、ぜひ活用したい。
日本語での情報提供は、東西ドイツを結ぶ観光街道「ゲーテ街道」とコラボする形で、日本向けデジタルマーケティングのキャンペーンサイト上で展開。西山氏からは「バッハゆかりの地が数多く点在する『ゲーテ街道』との相乗効果も期待できる」と語る。
さらにバッハの名曲や現代アーティストによる解釈を集めたプレイリストを公開し、バロック音楽の魅力を多角的に発信していく。

頭蓋骨を元に復元されたバッハの胸像(アイゼナハ・バッハハウス)
当編集部撮影
プレス発表会では、チューリンゲン州での「バッハフェスティバル」や、著名なアーティストやアンサンブルによる多彩なプログラムを展開するバッハゆかりの地ライプツィヒの「Bachfest」などが紹介されたが、これからドイツ旅行を計画する段階であれば、注目はドレスデンだ。
ドレスデンでは、旧市街にある聖母教会(フラウエン教会)や宮廷教会などで、周年記念の特別コンサートが多数予定されているだけでなく、設定価格も低めで、チケットもオンラインで簡単に入手できるという利便性の高さでもおすすめだ。
バッハの作品というと、クラッシック音楽を基礎にした宗教曲(ミサ曲)が有名だが、器楽曲も生み出している。聖母教会ではこれらに加え、コーラル(合唱)のプログラムも用意されているので、今年のクリスマスは聖母教会でバッハの《クリスマス・オラトリオ》というのも一案である。

聖母教会クリスマスコンサートの様子
当編集部撮影
中でも特筆すべきは、バッハが自ら演奏したパイプオルガンの生演奏。その音色は、ドレスデンが最も輝いたバロック期へと誘ってくれる。
ここにあるのは、高名なオルガン製作者ゴットフリート・ジルバーマンが製作した、3段の手鍵盤と43のストップのパイプオルガン。これが奉納されたわずか6日後の1736年12月1日に、バッハが当時まだ建設中だった教会の屋根裏に登り、2時間ほど独奏したという実に特別なパイプオルガンという。

バッハが演奏したパイプオルガン(ドレスデン・聖母教会)
当編集部撮影
1685年3月31日、宮廷楽士の末っ子としてアイゼナハでこの世に生を受けたバッハ。バッハが生きていた時代は「神聖ローマ帝国」に属していたが、その生涯で自国の国境を越えたことは一度もなった。
生家や洗礼を受けたゲオルグ教会が残るアイゼナハ、音楽を学んだリューネブルク、アルンシュタットやミュールハウゼン、ワイマール、ケーテン、カントルとして多忙を極め、終焉の地となったライプツィヒ。いわゆる「地域密着型」の音楽家だったバッハの足跡が辿れるのは、ドイツだけである。

バッハの生家にあるオーデオルーム(アイゼナハ)
当編集部撮影
Zum 275. Todestag: Alle Augen und Ohren auf Bach!
特設ページ |
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ドイツ観光局のプレス発表会では、毎年、西山氏が旅行会社のパッケージツアーの分析も発表しているが、それらの滞在都市には大小かかわらず、様々な町が並んでいる。これは観光を強みとしてる隣国でも、あまり見受けられない幅の広さで、旅のテーマも実に豊富であることがわかる。
中世から商業でも栄えたドイツには、小さな町にも宿があり、大都市で比較しても隣国より宿泊料金は割安。交通インフラも整い、国際空港から小都市へも簡単に移動ができるので、個人旅行もしやすい。
また、ドイツのように大衆に文化や芸術が開かれた国では、無料や少額で楽しめる文化イベントも多いので、お得感は半端ない。教会のオルガンコンサートなどは、活用したいほんの一例である。

自分にあったテーマを探して旅したいドイツ
ドイツの文化は普遍的なものが多いので、時代が異なっても個々にあわせて理解やすいという特徴もある。
海外旅行はまだ難しい状況かも知れないが、今年は「Cultureland Germany」を求めてドイツを旅してみるのはいかがだろうか?
案外、必要なのは「旅にでる勇気」だけなのかも知れない…