掲載日 : 2017年08月05日

写真 : 筆者撮影

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カーペットに織り込まれた女心

トルコ絨毯の相場って?

トルコ絨毯は、品質も日用使いのものから美術品的な価値があるものまで実に様々。値段はピンからキリまであり、必ずしも大きさに比例しない。そのためだろうか、街中で「言葉巧みに高額な絨毯を売りつけられた」とトラブルになるケースも少なくはない。

トルコで絨毯やキリムを買って日本に持ち帰る予定なら、そうした被害に遭わないためにも、また納得のいく買い物をするためにも、きちんとした下調べをしておくのが一番だろう。

では、相場はいくらくらいなのだろうか?
あくまでも目安に過ぎないが、現地ガイドはズバリ「製作年数かける5万円」だと言う。



キリムを織る女性

「織子」をモチーフにした絨毯



あのマルコ・ポーロも夢中にさせたトルコ絨毯は、トルコの人々にとって特別な存在。そうした絨毯は「織子」と呼ばれる女性たちによって製作されている。

織子はデザイン画を目の前に置き、一つ一つ手作業で縦糸2本に色糸を結びつけるダブルノットで仕上げていく。当然のことながらデザインの細かさによって工期は大きく異なり、一年に何枚も折れるパターンもあれば、たった一度織っただけで視力が大きく悪化し、もう二度と絨毯織の仕事ができなくなるものまである。

だからこそトルコの上質な絨毯は値が張るのだと、以前トルコ人の友人に聞かされたことがある。



Turkish-Kilim_11

織子はこの前に座り手作業で糸を結んでいく



絨毯に秘められた女性の思い

トルコ、ペルシャ、アフガニスタンにパキスタン… 絨毯の名産地を挙げると不思議とイスラムの文化圏が多い。トルコでは、その長い歴史の中で紅茶やコーヒーと同様に、絨毯織りは嫁入り前の女性が身につける「たしなみ」の一つとなっている。

特に古くからそうした認識が強いカッパドキアでは、息子がお嫁さんを連れてくると、お姑さんはまずその女性のコーヒーの淹れ方と織った絨毯を見て、どんな気質かを判断するのだと言う。
カッパドキアの洞窟住居を訪れた時、そこで年金暮らしをしているファティマさんがそんな話をしてくれた。



ファティマさん

岩窟住居に住むファティマさん



ユダヤ教と厳格なイスラム教の家庭では、伝統的に子どもの結婚は親が決める。親の決めたことは絶対なので、例え心惹かれる男性がいたとしても、絶対に「イヤ!」だなんて逆らったりはできない。「私の結婚相手はどんな男性なんだろう…」と思っても、その不安すら口にすることも許されない。

そんな心にふつふつと湧き出る想いを、女性たちは誰にも気づかれないように暗号化し、絨毯に織り込んでいく。つまり、トルコ絨毯は本人にしか分からない「日記」のような存在。だから、なおのこと感慨深い。



ファティマさんのお宅

ファティマさんのお宅のリビングにも手織りのキリムが飾られている



ファティマさんのお宅のリビングにも、お嫁入りの際に織ったという赤を基調とした絨毯が壁に飾られていた。
楽しい想い出はともかく、辛い想い出が織り込まれた絨毯を見て切なくなったりしないのかと尋ねたところ、辛いことであっても自分の心を絨毯に客観的に映し出すことで、浄化されるような気分になるのだという。

とはいえ、ファティマさんは結婚前からご主人が大好きで、一緒に暮らせるのが待ち遠しくて仕方がなかったとのこと。つまり、ファティマさんが人生で最も幸せだった時間が、そこに詰まっていることになる。ギッシリと…

残念ながらご主人は数年前に先立ってしまったそうだが、絨毯を眺め愛する夫をいつも想い出していられるのは、ある意味とても幸せな人生と言えるのかも知れない。

この日は、トルコの人々の人生との向き合い方について考える、そんなカッパドキアでのひと時となった。



(つづく)



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