エストニア農業省、「四季の旅 エストニア」と題したコース料理の試食会を開催
駐日エストニア大使館と同国の農業省は去る4月21日、「四季の旅 エストニア(A journey through the seasons of Estonia)」と題したコース料理の試食会を催した。
エストニアについて
ヨーロッパ北部、バルト海に面するエストニアは、隣国ラトビアやリトアニアとともに「バルト三国」の呼び名で知られる国の一つ。面積は日本の九州とほぼ同じ45,339平方キロメートルで、人口は福岡とほぼ同じ約130万人。190以上の民族で構成され、うち70%をエストニア人が占めている。
エストニアに人が住み始めたのは紀元前8500年頃とされ、デンマークやドイツ、スウェーデン、ポーランド、ロシア帝国、ソビエト連邦(以下、ソ連)の統治時代を経て1918年に建国。1991年の「歌の革命」により、ソ連から平和的な独立を回復した。2018年は、建国から100年という記念すべき節目の年を迎える。
長年、エストニアがある「バルト三国」は東欧と位置づけられていたが、国連は2017年1月、同地域区分を北欧に変更し、エストニアも北欧諸国の仲間入りを果たした。
クリーンな国、エストニア
エストニアでは処方箋の99%が電子化されており、また99%の行政サービスもオンラインで行われるIT先進国でもある。電子署名と電子政府システムにより、毎月300メートル分の紙が節約されているという。
また、国土の22%が自然保護区となっているエストニアでは、クリーンな環境づくりにも積極的に取り組んでおり、都市における空気のキレイ度において首都タリンは世界第4位。さらに17%がオーガニック農場となっている。
来日したエストニアのタルモ・タム農業大臣は挨拶の中で、そうしたクリーンな環境で育まれた自国の農産物の味わいとその安全性に胸を張り、試食会に同席したエストニア出身の元大関、把瑠都さんを一例に栄養価の高さもアピールした。
有名なマナーハウスから2人のシェフが来日
今回の試食会のために、タリンから車で1時間ほどの「プヒャカ」というマナーハウスのレストランで働く、オット・トミックさんとマッテ・メセリクさんの2人のシェフが来日し、ホテルの厨房を借りてその腕を振るった。
プヒャカ・マナーハウスは、エストニアで特に知名度の高いレストランで、天然のシーバックソーンの蒸留酒などの飲料や食品も取り扱っている。
エストニア人が最もこだわる食品
エストニア料理の大きな特徴は、ビタミンやミネラルを豊富に含んだ地元の新鮮食材。中でもこだわりを見せるのが「黒パン」である。
ライ麦をベースにモルト粉やハーブを配合して焼き上げた、ほのかな酸味を感じさせる「黒パン」は、どっしりとしていて、一度食べると病みつきになる美味しさである。
この黒パンには、脂肪分無調整のエストニア産バターをたっぷり塗ると旨みがさらに増すが、今回はハーブを混ぜたバターが用意された。
エストニアの四季を食す
提供された今回のコース料理のテーマは「エストニアの四季」。まず「春」をイメージした1皿目は、メイン食材に「ウナギ」を使った料理。エストニアという国からあまりイメージがわかない食材かも知れないが、漁業も盛んなエストニアでは近海で水揚げされたウナギもよく食される。
この料理は、軽く白焼きにしたウナギをマリネし、それをボイルしたもの。そのためほのかに酸味が残り、日本のシメサバのような味わいがする。
海外でウナギは、日本のような背開きや腹開きに下処理はされないため、そのまま輪切りで食すのが一般的だが、ナイフとフォークを使って骨はキレイに外せる。
「夏」は、サラダ仕立てになったポテトとカッテージチーズのサラダ。そこにイワシの塩漬けやキュウリ、ネギが添えられている。
北欧では春に白樺の樹液を飲む習慣があるが、この日は春に採取し瓶で保存し少し発酵させた、少し酸味のある樹液ジュースが「夏」の料理との組み合わせで提供された。エストニアの人々は各食材の収穫時期に合わせて消費するが、残った分は保存食にして長く楽しんでいるのだという。
エストニア人は「肉の愛好家」。年間一人あたりの肉の消費量は平均65キロ(出典:エストニア農業省)にもおよび、特に豚肉の消費が多い。
だが「秋」と言えば、やはりジビエ料理! ということで「大鹿の肉」をメイン食材にした料理が提供された。付け合わせは大麦のリゾットやビーツ。ビーツは甘みのある「グラッセ」になっていて、やや塩気のあるブラウンソースとの相性も抜群である。説明では、日本には存在しない鹿ということだったが、1皿でこれだけの肉の塊が取れるんだから、よほど大きいに違いない。
一緒に出されたのは酒造メーカー、サク社のクラフトビール。1820年当時にサク・マナーハウスを所有していたカール・フリードリッヒ・フォン・レフビインダー伯爵が、地元の地下水と最高のホップ、麦芽、そして酵母を使って造りあげたというエストニアビール。
味わいはもちろん、華やかで心地の良い香りが口いっぱに広がる。ドイツの影響を受けたエストニアでは、こうした高品質のビールが味わえるのも大きな魅力である。
そして、4皿目の「冬」は、甘酸っぱいシーバックソーン(サジー)のソースを添えたメレンゲ。厳しい自然環境の中でもたくましく育つシーバックソーンは、ビタミンやミネラル、それにフォリフェノールがたっぷりと含まれていて、冬のエストニアを代表する果物の一つである。
スイス、フランス、イタリアとも少し異なるメレンゲの食感は、エストニアに行ったらぜひ味わってみたい。
最後は、日本人にも馴染み深いソバを原料にして作った焼き菓子とチョコレート、天然のハチミツで。そして、ローズヒップティーで締めくくられた。
「ショコララ」は、職人が自然と高級チョコレートを融合させたエストニアのチョコレートメーカーで、地元料理の伝統や天然成分を取り込んだオリジナル・レシピに基づく手作りチョコレートを提供している。
長い歴史の中でドイツやロシア、さらにフランス料理など、様々な国の食文化の影響を受け、近年では北欧のモダン料理の影響も大きく受けているたエストニア料理。そのため、厳密にどこからがエストニア料理かという線引きは難しいが、実際に食して感じたことは調理法も含め、どれも繊細であるということだ。
「我々の素敵な小さな国エストニアを、ぜひ訪れてみてください。」とタルモ・タム農業大臣。皆さんもエストニアの味覚を体験しに、出かけてみてはいかがだろうか。