香港ワンダー・コラム
世界広しといえども2階建ての路面電車は香港にしかない。しかも、香港島だけで、九竜側では走っていない。運行開始は1904年というから、明治37年、なんと日露戦争が始まった年である。中国返還の1997年で93年間も走り続けていることになる。(余談だが、ビクトリア・ピークへ登るケーブル・カー〈ピーク・トラム〉はもっと古くて、1888年から運行を始めている)。
何気なく見逃していた香港の2階建て路面電車トラムは実は香港の交通機関の歴史の1ページを飾る貴重な存在なのである。これはピーク・トラムと共に何時までも香港のシンボルとして親しまれることは間違いなかろう。
路線は4系統に分かれているが、いずれの系統も運転手だけのワンマン電車である。後ろから乗って前で支払う。香港島の北部を大体ビクトリア・ハーバーに沿って走り、東部の漁村シャウキワンと、中国からの貨物の荷降ろしで活況を呈している西部のケネディタウンとを結んでいる。
さらには、映画「スージー・ウオンの世界」で有名な歓楽街ワンチャイ地区を経由し、香港のビジネスセンターであるセントラルを横切り、さらにその先の、海産物の乾物店や漢方薬の専門店などがかたまっているウエスタン地区を経て、終点ケネディタウンに至る。
料金は全線どこまで乗っても、また、1階でも2階でもHK$1.2(約20円)の均一料金である(1996年現在)。その便利な利用価値を考えると申し訳ないような低料金ではある。ただ、繁華街やビジネスセンターを結んでいるため、ラッシュアワーには結構混み合う。
この路面電車は、その沿線の香港特有の活気みなぎる生活のありようを、次から次へとパノラマのように見せてくれる。だから絶好の観光手段でもある。特に、結構高く感じる2階座席から見下ろす、普通の観光バスとはまるで違った視野にとびこむ景観は実にエキサイティングなものである。