09. ハンガリー王国の原点、エステルゴム
ハンガリーにおけるローマカトリックの総本山「エステルゴム大聖堂」
ブダペストの北西およそ40キロ、ドナウ川を境にしてスロヴァキアと国境を接するエステルゴムは〈ハンガリー王国の原点〉とも呼べる町。ハンガリーの初代国王イシュトヴァーン生誕の地でもあり、13世紀にヴェーラ4世がエステルゴムを大司教に譲るまで、ここにも王宮があった。
初代国王イシュトヴァーンの幼少名はヴァイク。キリスト教に改宗した際、イシュトヴァーンという洗礼名を授かった。ハンガリーのキリスト教化に貢献したことからカトリック教会に列聖され、一般に〈聖イシュトヴァーン〉と呼ばれている。
神聖ローマ帝国のオットー3世の同意を受け、西暦1000年にイシュトヴァーンの戴冠式が行われたのが、このエステルゴム大聖堂であった。聖堂に向かって左手にある時計の横に、その戴冠式の様子が描かれたレリーフが残されている。
ハンガリーにあるカトリック教会の典型的な造りをした、この大聖堂のドームの直径は53.5メートル。高さは100メートル程ある。音響も良く、ここでオルガンコンサートも開催されている。1856年に行われた奉献儀式を兼ねたミサでは、リストが『エステルゴムのミサ』を作曲。聖堂内部には、その時のレリーフもある。また、聖堂の地下にはギリシャ神殿を彷彿とさせる大きなクリプタ(納骨堂)があり、そこに歴代の大司教が眠っている。
主祭壇にある絵画『聖母マリアの被昇』は、祭壇に飾られた〈聖母被昇天〉画としてはヨーロッパ最大級を誇る。一方、右翼廊部には後継者となるはずだった王子イムレを事故で失い、「自分の王冠を誰に授ければ良いのか」と聖母マリアにイシュトヴァーンが問いかけている情景を描いた1枚の絵がある。そこからは国王である前に一人の人間として、そして父としてのイシュトヴァーンの悲痛なまでの叫び声が伝わってくるようである。
その絵のある右翼廊部でもう一つ目を引くのが、ガラスのケースに入った髑髏。これは宗教が弾圧された社会主義時代に、多くの宗教関係者が拷問死したことを受け、そうした時代が二度と繰り返されないようにとの戒めで安置されているのだという。
「エステルゴム大聖堂」の上階には宝物館があり、さらに上にある塔からはエステルゴムの街並みが一望できる。ドナウの対岸に広がるのが、スロヴァキア領のシュトロヴォ。ドナウ川にはこの2つの町を結ぶ、皇帝フランツ・ヨーゼフとシシィの3女〈マリア・ヴァレリア〉の名を冠した橋が架かっている。この橋は第2次世界大戦で破壊されたが、2001年の秋に再建され現在に至っている。
この歴史あるエステルゴムへは、ブダペストからバス、鉄道、または船でアクセスできる。エステルゴムの船着場は、中心部からおよそ1.4キロ(徒歩で約20分)のところにある。
エステルゴム大聖堂 |
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