17. トカイワイン紀行 ≪前編≫

掲載日 : 2016年08月15日

写真 : 筆者撮影

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トカイの名門貴族ラーコーツィ家所有の地下セラー



トカイワインを世界に知らしめた名門貴族、ラーコーツィ・フェレンツ2世

12世紀からブドウ栽培が盛んに行われてきたトカイは、世界的にも有名なワインの名産地。ハンガリーワインの代名詞にもなっているこの地方で造られる〈トカイアスー〉は、世界三大貴腐ワインの一つに数えられている。

地下セラーは地上に伸びる道路よりも長いと言われ、ブドウの栽培からボトル詰めまでの全工程をこの地域で経たワインのみが〈トカイワイン〉を名乗ることができる。当然のことながら、樽での移動も一切許されていない。

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トカイワインを世界に知らしめた
ラーコーツィ・フェレンツ2世の像

そうしたワインの伝統的な製法を、300年以上も厳格に守り続けられてきたことが評価され、トカイは2002年に「トカイ・ワイン産地の歴史的文化的景観」として、ユネスコの世界遺産に登録された。

そんなトカイを世界に知らせしめた人物こそハンガリー独立運動の指導者で、国民的な英雄でもあったトカイの名門貴族ラーコーツィ家のフェレンツ2世だ。〈ボロゾー〉と呼ばれる販売を兼ねたワイン居酒屋が点在する村の目抜き通りに、その〈ラーコーツィ・フェレンツ2世の像〉が立っている。
フランス王家と代々親しかったラーコーツィ家は、フェレンツ2世の時代にトカイで最大のブドウ畑を有していたという。

フランス宮廷の晩餐会に招かれたフェレンツ2世は、自ら所有する農園で造られたワインを持参した。そして、そのワインを口にした太陽王ルイ14世が絶賛して発した「Vinum Regum, Rex Vinorum」(ワインの王にして、王のワイン)という言葉は瞬く間に広まり、後世にまで名言として残ることとなった。

ナポレオン3世は、そうしたトカイワインを年間30~40樽も注文。また、お酒を飲まなかったスウェーデン王のグスタフ3世も、トカイワインだけは口にしたと言われている。ロシアのピョートル大帝やエカチェリーナ2世、ローマにいる教皇らもその美酒に酔いしれ、皇帝フランツ・ヨーゼフは毎年、イングランドのヴィクトリア女王の誕生日にトカイワインを贈っていた。トカイワインは、まさに〈王のためのワイン〉となった。

だが、トカイのワインをこよなく愛したのは、なにも王侯貴族だけに限らない。ベートーヴェンやシューベルト、リスト、ハイドン、シュトラウス、ロッシーニなどの音楽家、さらに文豪ゲーテやその盟友シラー、詩人のハイネといった錚々たる文化人や芸術家をも虜にした。
そして、ゲーテは戯曲『ファウスト』にトカイワインを登場させ、シューベルトも1815年に『トカイ酒賛歌』(Lob des Tokayers D. 248)を作曲し、トカイが生んだ〈奇跡の雫〉を褒め称えた。

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コシュート広場にあるラーコーツィ家の醸造所

そのラーコーツィ家所有のセラーが、村の中心部に残っている。歴史と伝統を感じさせるセラーの前には、ワイングラス片手に樽に腰かけ、上機嫌のワインの神様〈バッカス〉の像があると聞いていたのだが、まさか飲み過ぎで風邪でも召されたか。この日はあいにく目隠しされ、拝顔できなかった。

ラーコーツィ家が所有するこの地下セラーの長さは、トカイ最大のおよそ1.5キロ。そこに24の入り組んだ通路があり、その奥に燭台が並ぶ長いテーブルや古い器具が飾られた広間がある。これほどまでに大きな歴史的な広間があるのは、トカイで唯一、ここだけだという。

きっと冬温かく、程良い湿度が保たれているせいだろう。通路には心地よさそうに眠る小さなヘビの姿があった。トカイのシンボルには、枝が付いたブドウの房と十字架に巻きつくヘビが描かれているが、ここでヘビに会ったのは単なる偶然だろうか?

セラーは7月と8月の毎日、朝11時から夜8時までオープン(それ以外は要確認)。直売の他、ワインのテイスティングも行っている。1名の料金は、3,500フォリント(40ml/6杯)。テイスティングするワインのグレードに応じたプランも、3,700フォリント(30ml/4杯)からいくつか用意されている(いずれも2016年3月現在)。

トカイでは毎年10月上旬に、ブドウの収穫を祝う祭り「Tokaj-hegyaljai Szüreti Napok」が行われる(2016年は9月30日~10月2日開催)。期間中、コシュート広場にはワイン屋台が並ぶので、その時期に合わせて村を訪れてみるのもお勧めである。
 


トカイ村  トカイ村

左:「ワインの里」トカイ村の目抜き通り
右:トカイでのワイン造りの歴史は5世紀にもおよぶ



ラーコーツィ・ピンツェ
Rákóczi Pince

http://www.rakoczipince.hu

 

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