15. 世界遺産「パンノンハルマ大修道院」

掲載日 : 2016年08月01日

写真 : 筆者撮影

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1996年に世界遺産に登録された「パンノンハルマ大修道院」



千年の歴史を持つ丘の上の修道院「パンノンハルマ大修道院」

ジェールの南東およそ21キロ、〈パンノニアの聖なる丘〉と呼ばれる聖マールトンの丘に佇む「ベネディクト修道会大修道院」(以下、パンノンハルマ大修道院)は、10世紀末にチェコからやって来たベネディクト派の修道士たちが創設したハンガリー最古の修道院だ。初代国王イシュトヴァーンにより1002年に完成し、ハンガリーにおけるキリスト教信仰の出発点となった。

1996年にユネスコの世界文化遺産に登録されたこの修道院には、1802年にハンガリーで初めて大学進学のための準備学校「ギムナジウム」が創設された。これがハンガリーにおける教育史の始まりとされている。敷地内には、現在も全寮制の男子校がある。意外にも神学校ではなく、教育内容は一般校と変わらないという。学校以外にも、修道院の建物の一部は老人ホームとして使用されている。

天国の扉

「天国の門」には孔雀が描かれている

ロマネスク、ゴシック、オスマン帝国の占領期、バロックなど、その歴史の中で増改築や修復が繰り返されてきたパンノンハルマ大修道院。中でも目を引くのが、最初にイシュトヴァーンが建てた聖堂跡に建つ、ハンガリー初期ゴシック様式の「聖堂」(バジリカ)である。

聖堂へは、高さ55メートル、19世紀に建造された塔にある「天国の門」をくぐる。この扉の上部には〈孔雀〉が描かれている。孔雀は、民族音楽学者でもあったコダーイが作曲した『ハンガリー民謡「孔雀」による変奏曲』の主題でもあり、ハンガリーでは〈希望〉を象徴する生き物となっている。

さらにその上に視線を向けると、壁にパンノンハルマの歴史に登場する人物が描かれたモザイク画がある。中央の十字架を手に持つ女性の左に描かれた紫のマントの人物が、修道院の創設を正式に認める証書を差し出す初代国王イシュトヴァーン。その反対隣りに描かれた緑のマントを羽織った赤服の人物が、1786年に神聖ローマ帝国のヨーゼフ2世によって閉鎖されたこの修道院を再興した、オーストリア皇帝のフランツ1世だという。

聖堂の内扉へと続く廊下には、繊細で美しい1枚の聖母子画がある。これは19世紀にヴェネツィアで、5,000個もの石を使って製作されたモザイク画で、皇帝フランツ・ヨーゼフがベルギーから長男ルドルフの下に嫁ぎ皇太子妃となったステファニーに、結婚祝いとして贈ったものである。

ルドルフがマイヤーリングの館で、愛人の男爵令嬢マリー・ヴェッツェラと心中し、未亡人となったステファニーはハンガリー貴族のエレメール・ローニャイ伯爵と再婚し、自分の遺骸はこの聖堂に埋葬して欲しいと遺言した。そして、死後それに従い埋葬された後、身の回りの品々も修道院に寄付された。この絵がここにあるのは、そのためである。

地下墓所

ステファニーとオットーが眠る地下クリプト

ステファニーは、主祭壇下にあるクリプトに眠っている。また、2011年に亡くなったハプスブルク最後の皇太子であるオットー・フォン・ハプスブルクの心臓も、同じ場所に安置されている。

小さなバラ窓から控えめに光注ぐ聖堂は、荘厳というよりも柔和で慈愛に満ち溢れていて、ラテン十字の置かれた主祭壇に夕陽が降り注ぐと、御手に抱かれ、そのまま天国へと導かれるような、穏やかで満ち足りた神聖な気持ちになってくる。

聖堂の前方の扉は、修道院の回廊につながっている。その回廊の左手側に「聖イシュトヴァーン礼拝堂」がある。ここには2つのステンドグラスがあり、正面にあるのが後継者になるはずだった息子のイムレを失ったイシュトヴァーンが、聖母マリアに「自分の王冠を誰に授ければ良いのか」と問いかけている情景が、そしてもう一枚にはイシュトヴァーン洗礼の場面が描かれている。礼拝堂の灯りが消えると、暗闇にこの2枚のステンドグラスが浮かび上がり、何とも幻想的である。

余談だがイシュトヴァーンという洗礼名は、キリストの12使徒から助祭に指名された1人で、石打の刑で命を落としたキリスト教で最初の殉教者〈聖ステファノ〉から取って授けられたハンガリー語形の霊名(名前)で、ドイツ語名のステファン、英語名のスティーヴンに対応している。
 


フランツ・ヨーゼフがステファニーに贈ったモザイク画  教会内部  聖イシュトヴァーン礼拝堂

左:皇帝フランツ・ヨーゼフがステファニーに贈ったモザイク画
中央:12世紀末の初期ゴシック様式で修復された聖堂の内部
右:2つのステンドグラスがある聖イシュトヴァーン礼拝堂


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