4.地中海の恵みに舌鼓
食文化にみる国民性 ~ ギリシャ人考察
豊かな大地と食文化は国民を大らかにする?!
ドイツを筆頭とするEU諸国だけでなく、金融家を中心に世界中の人をハラハラさせたギリシャの経済危機問題。
今回ギリシャのペロポネソス半島を取材したのは、その騒動の真っ最中。まさにEUの議会で、追加融資案が議論されていた2015年10月のことだった。ちょうど難民問題も重なり、各国の紙面を騒がせていた時期でもある。
取材旅行の主催者である駐日ギリシャ大使館からお誘いを受けて参加を決めたのは、経済問題について最悪の事態が回避され、少し落ち着きを取り戻した夏の終わり。だが、その直後に難民問題が大きくなり、やれやれ一体どんなハプニングがわが身を待ち構えているのやらと、出発前にため息をつきつつも腹をくくった。
長年ギリシャにかかわっている人は、「ギリシャ人の多くが(金融問題に関して)何が問題なのかを理解していないようだ。」と言う。そして、当のギリシャ人も「信用取引の面では障害が起きても、日常生活面での支障はない。キャッシュフローの問題。」と、あっけらかんに言い放つ。
「ギリシャ人は、怠け者でいい加減なのか」と訊かれれば、案外そうでもない。意外にもよく働くし、”それなりに”一生懸命だ。可能性がゼロでないにせよ、スキあらば人を騙そうとかいう、ずる賢さも感じられない。
だから、キケンなカオリもしない。
人々は素朴で、陽気というよりも、とにかく人懐っこい。街中を歩いていても、気軽に話しかけてくる。お年寄りも英語が上手な人が多いし、もちろん人種差別的な発言もしない。そうしてギリシャ人と接するうちに、私は単純に、そしてごく自然に彼らは良い意味でも悪い意味でも「かなり大らかな国民」なのだと、好意的に捉えるようになっていた。慣れてくると、なかなか愛すべき国民気質である。諸問題は別として・・・
では、その「ギリシャ人の大らかさは、一体どこからやってくるのか」と言うのが、私にとって取材旅行での一つの関心事となった。そして、その一つの要因が「豊かな食文化にある」のではないかと推測してみた。
様々な面において不利な環境に置かれた国の人々は、それが作物であれ、産業であれ、より快適な生活環境を得るために、不利な面を克服しようと知恵を使い、努力をせざるを得ない。ところが、環境的に恵まれていると、そういうことをする必要が全くないのだ。目の前にあるものをそのままを受け入れ、与えられた恵みに感謝して生活をしていれば、それで何とかなる。いや、なってきたのだ。つまり、良くも悪くも「備える」という慣習が、恐らくギリシャ人にはほとんどない・・・
日本人も見習いたいギリシャ人の「時間と幸せの尺度」
すっかり前置きが長くなってしまったが、地中海の温暖な気候と肥沃な大地に恵まれたギリシャは、まさに食材の宝庫。海の幸はもちろん、羊肉をはじめとする肉類、野菜、ハーブ、果物など、新鮮な食材で溢れている。食糧自給率も高い。
小皿料理の「メゼ」や大皿にたっぷり盛られた料理を、みんなで分け合って、チプロ片手にわいわい会話を弾ませながら食事を楽しむのがギリシャ流。それは私たち日本人が今、経済的な豊かさと引き換えに失いつつある、温かな家庭の食卓や団らん、仲間との宴の時間と相通ずるものある。また、どちらもタコを食べるという、世界では数少ない共通した食習慣もある。
遥か昔に高度な文明を生みだし、神話の神々を崇め、そして肥沃な大地に守られた中で豊かな食文化を育んできたギリシャ人にとって、きっと「お金」や「経済」は取るに足らないものなのであろう。「時間と幸せの尺度」が、一般的に現代社会で生きる人々が持つものと、この国の人のものとでは、根本的に違っているような気がする。
家族や仲間が集って、大地からの恵みを喜び分け合いながら大らかに楽しむ、それこそがギリシャの人々にとって何よりの幸せ。そこには現代社会が置き去りにしてきた、お金では計り知れない「真の豊かさ」がある。ギリシャの人々は、それを彼らの DNA から消し去ることは決してないのだ! 案外日本人も、それを少し見習ってみるべきではないだろうか?
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