音楽の都ザルツブルク
列車が中央駅に到着し、ホームに降り立つ。すると頭の中で、まるでピアノの鍵盤の上を歩いているかのように、ポロ~ン ポロ~ンと音が鳴り始めた。重たいスーツケースを引きずりながらも、筆者の足取りはどこか軽やか。そうして頭の中で集まった音色は、やがて大好きな1曲へと変わる。『ピアノ協奏曲第23番イ長調(K.488)』。
そう、ここは「音楽の都ザルツブルク」。そして、あの天才と謳われる音楽家モーツァルトの生誕地である。
ザルツブルクが世界に誇る天才音楽家、ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト
「世界で最も愛される作曲家は?」と質問されたら、そのほとんどがヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトの名を口にすることだろう。世界中の誰もが知るその天才音楽家は1756年1月27日、ザルツブルクで誕生した。生家があるのは「ザルツブルクの銀座」とも呼ばれるゲトライデ通りの9番地(Getreidegasse 9)。黄色い外壁と人の出入りの多さですぐに見つかる。
モーツァルトとその家族は、1773年までこの建物の4階で暮らしていた。そこにはモーツァルトが産声を上げた部屋があり、館内にはモーツァルトが少年時代に使用したヴァイオリンや自筆譜などが貴重な資料と共に展示されている。モーツァルトの人生が感じられるこの空間は、まさにモーツァルトのファンの巡礼地と言える。
実はこの建物、1996年になって復元されたもの。オリジナルは、残念なことに1944年10月の空襲でほとんどが破壊された。
戦後、建物は人手に渡ってしまったが、後にザルツブルクに拠点を置く国際的な非営利団体である「国際モーツァルテウム財団」が取り戻し、日本の大手保険会社「第一生命」の資金協力を受けて、モーツァルトが生きた時代の形に復元。現在に至っている。
同財団は、ナンネルの愛称で知られるヴォルフガング・アマデウスの姉マリーア・アンナ亡き後、その遺品を引き継いで管理すると同時に、モーツァルト芸術の保護振興を目的とした活動を行っており、住居復元のプロジェクトを機に第一生命や日本との友好も深めている。
2017年5月には、東京の大手町にある第一生命の本社ビルにおいて、3年ぶりとなるモーツァルトのコレクション展『ナンネルとヴォルフガング』を開催。モーツァルトがザルツブルク時代に愛用していたヴァイオリンのロビーコンサートを行い、ザルツブルクから遠く離れた日本の地で250年前の美しい音色を蘇えらせた。
国際モーツァルテウム財団は、ヴァイオリンの他にも持ち出し厳禁となっているクラヴィーアといった楽器を多数所有している。モーツァルト住居(モーツァルト博物館)では、そうした楽器を用いたコンサートも行われているので、ザルツブルクを訪れた際にはその耳でモーツァルトが生きた時代の音色を確かめてみてはいかがだろうか。
Stiftung Mozarteum Salzburg |
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常に開かれている芸術の扉
「右を向いても左を向いてもモーツァルト」のザルツブルクはまた、世界屈指の「音楽の都」でもある。
『クラシック音楽は社交界のエチケット』と市民は胸を張り、代表的な音楽祭だけでもモーツァルトの誕生日の前後に開催される「モーツァルト週間」にはじまり、春の聖霊降臨祭の時期に開催される「ザルツブルク聖霊降臨祭音楽祭」、世界的な指揮者カラヤンが私財を投じて創設した「ザルツブルク・イースター音楽祭」、チケット入手困難な夏の「ザルツブルク音楽祭」、秋の「ザルツブルク文化週間」など、錚々たるラインナップとなる。
ザルツブルクの素晴らしさは、それだけに止まらない。「音楽」に代表される芸術や文化は単に一部の限られた人々の楽しみなどではなく、ザルツブルクではどんな人にも常に開かれていることにある。
劇場に入れない未就学の子供やお小遣いが少ないという学生、食べるので精一杯という人もそうでない人も、気軽に楽しめるのが野外音楽祭。ホーエンザルツブルクの麓のカピタル広場には、「ザルツブルク音楽祭」のシーズンに合わせて大きなスクリーンが設置され、そこで過去に催されたザルツブルク音楽祭のハイライトなどが上映する「ジーメンス・サマーフェスティバル」が催されている。入場はもちろん無料。最近は、観光客の姿も多く見られるようになったという。
2017年の「ジーメンス・サマーフェスティバル」は、7月27日から8月30日まで開催。音楽祭のチケットが入手できなかったという方、値段を見て諦めたという方は是非こちらがお勧めである。
SIEMENS Fest>Spiel>Nächte | https://www.salzburg.info/de/salzburg/salzburger-festspiele/siemens-fest-spiel-naechte |
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次回は「映画『サウンド・オブ・ミュージック』の舞台を歩く」
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