チロルにクリスマスがやって来る
インスブルックの町が黄金色に輝き、日本のお盆にあたる11月1日の「諸聖人の日」(万聖節)とその翌日の「死者の日」が過ぎると、次ぎに人々が待ち遠しくなるのがクリスマスだ。キリストの再臨に備える「アドベント」(待降節)のシーズンになると、インスブルックの各所は華やかなクリスマスイルミネーションに彩られる。
聖ニコラウスが悪魔を従えやって来る
イエス・キリストの他に、クリスマスに欠かせない人物と言えば「サンタクロース」。そのサンタクロースの由来になったのが、3世紀から4世紀に実在したという聖人「聖ニコラウス」である。
キリスト教の国々では、聖ニコラウスの命日とされる12月6日を「聖ニコラウスの日」として祝うが、その前夜に聖ニコラウス(サンタクロース)がやって来て、良い子にお菓子をプレゼントし、悪い子にはムチでお仕置きをする。その時に聖ニコラウスが従えているのが天使と、鬼の形相をした「クランプス」だ。
クランプスとは、ドイツの南部からオーストリア、ハンガリーやルーマニアなど、主として中央ヨーロッパを中心とする広い地域で信じられている伝説の生物。大晦日の晩に姿を現す日本のナマハゲのような存在で、良い子にプレゼントを渡す聖ニコラウスとは対照的に、聖ニコラウスに代わって悪い子を罰する役目がある。
クランプスは12月の最初の2週間ほど現れるが、腰に巻き付けたカウベルの音を響かせながら、ムチを片手に街を練り歩くクランプスに最も遭遇するのが12月5日。この日の晩、近くに伝統的な「クランプスの祭り」で有名な村があるというので出かけることになった。
その村の名前はゲッツンス(Götzens)。インスブルックの西およそ8.5キロにある村で、インスブルック中央駅から公共のバスを使って15分ほどでアクセスできる。
クランプスの祭りは19時半から、バスを降りて5分ほど歩いた村の中心部の広場で行われる。陽が沈み、さすがに足元がジンジンするような寒さだったが、到着した時にはすでに大勢の人が広場を囲み、今か今かとクランプスの登場を待っていた。
そんな中、最初に姿を見せたのが何ともキュートな天使を従えた聖ニコラウス。広場を巡りながら人々と握手を交わし、良い子にプレゼントが入った包みを手渡す。包みの中には、お菓子と一緒にミカンやピーナッツが入っている。意外にも中身は質素だが、それが伝統となっている。
そんな穏やかな時間も束の間、広場が真っ赤な炎と煙に包まれる。そう、ついにクランプスのお出ましだ!
実は、筆者がクランプスを生で見るのはこれが2度目。1度目はオーストリア南部のグラーツだったが、その時とは規模も迫力も大違いである。
グラーツでは、怖い形相の中にもどこか親しみが感じられるマイルドなクランプスだったが、伝統色の濃いチロルではクランプスは容赦なく襲いかかってはムチで足をバシバシ。良い子(?)の筆者は幸いムチで打たれることはなかったが、中には半泣きで逃げまとう人、かと思えば勇敢にクランプスに立ち向かう子どもがいたりと、広場は大騒ぎの状態となった。
事前に「クランプスパレード」と聞いていたが、実際は演出も凝っていて、首つり台が出てきたと思いきや、今度はクランプスが檻に入れられて状態で運ばれてきたり、ちょっとしたショー仕立てになっていて見応えもバツグンだ。現れたクランプスの数も、大人から子どもまで50体というから驚きである。
お祭りの時間は約1時間。寒空の中での立ち見には少々長い時間だが、しっかり防寒対策をして出かけてみたいお祭りである。
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