11. ハンガリー人の故郷を歩く
世界遺産の村「ホッロークー」
ブダペストの北東およそ70キロの山岳地帯に、まるで時の流れが止まってしまったかのような静かな村がある。ここは1987年に村単位として初めて世界文化遺産に登録された「ホッロークー」。この「ホッロー=カラス」「クー=石」というちょっと変わった村の名は、村のシンボルにもなっているチェルハートの山頂に建つ13世紀建造の城の主が女の子を誘拐して幽閉したところ、カラスに化けた悪魔が毎晩少しずつ石を取り除き助け出した、という伝説に由来していると言われている。
2011年に導入された、砂糖や塩分の多い飲食品に課税する通称「ポテトチップス税」など、ユニークな税金のあるハンガリー。そんなハンガリーには、15世紀のマーチャーシュ王の時代にも、ちょっと変わった課税方法があった。それが「煙突の数」。このホッロークーには、その名残を今に伝える伝統家屋が見られる。
村を歩いていると時折、少し目線を上げた屋根裏部分の壁に穴の開けられた家屋がある。これは税金対策のために開けられた穴。この穴が煙突代わりを果たしているのだが、単純な穴ではなく十字架やワイングラスをイメージした模様になっている辺りが、どこか日本の伝統家屋に見られる〈欄間〉を連想させる。
村の人口はおよそ340人。うち4分の3が年金生活者と高齢化が進むホッロークー。夏には多くの観光客で賑わうこの村もオフシーズンは人気もまばらで、静かにのんびりと散策が楽しめる。とは言え、お店はどこもクローズ。そんな中、私たちの存在に気付いてドアを開けてくれたのが、「ファゼカシュハーズ」という店であった。
店内を見せてもらっている間、ラースローさんがこの地方の伝統的な音楽をかけてくれた。次から次へと展開する変拍子のリズムが、どことなくトルコの音楽を連想させる。そうしたハンガリー固有のメロディーをホッロークーのような原風景の中で聴くと、より情緒的に感じられる。
ホッロークー名物と言えば、インゲン豆と羊肉を使った〈パローツスープ〉。その他にも酸味の効いたパローツの料理があるので、そちらもぜひ味わっておきたいご当地グルメである。また、イースターなどのお祭りの日には、美しい刺繍が施された民族衣装のブラウスと、何枚ものスカートを重ね着した女性たちの姿が見られる。既婚者はさらに頭に飾りを着け、男性は黒い帽子をかぶるのが特徴となっているそうだ。
ここには他のハンガリーの町や村では感じられない、ある種の特別な時間と空気が流れている。個人旅行者には少々足の不便があるが、〈訪れるべき村〉の一つと言えるだろう。
ファゼカシュハーズ |
---|
次回は「ラベンダーが香るバラトン湖へ」
【 クイック・ナビ 】
・ インデックス
・ 世界遺産ブダペスト街歩き
・ ハンガリー伝統の味覚
・ 市民の胃袋を支える中央市場
・ ブダペストのカフェ巡り
・ ブダペストを食べつくす (1)
・ ブダペストを食べつくす (2)
・ ブダペストの最新ホテル
・ シシィが愛したグドゥルー
・ ハンガリー王国の原点
・ ルネッサンスが花開いた王都
・ ハンガリー人の故郷を歩く
・ ラベンダーが香るバラトン湖
・ バラトンでアクティブな休日
・ バラトン湖周辺のワイナリー
・ パンノンハルマ大修道院
・ ハンガリーで湯めぐり
・ トカイワイン紀行 (1)
・ トカイワイン紀行 (2)
・ ハンガリーへのアクセス
【 エリア/スポット 】
・ ブダ王宮地区
・ ハンガリー国会議事堂
・ ブダペスト中央市場
・ ジェルボー(カフェ)
・ アレクサンドラ(カフェ)
・ ムーヴェース(カフェ)
・ カフェレストラン「ピエロ」
・ レストラン「エーミル」
・ レストラン「タンティ」
・ カフェ「ゲルローツィ」
・ レストラン「NOBU」
・ レストラン「グンデル」
・ アリアホテル
・ ホテル・モーメンツ
・ ザ・リッツ・カールトン
・ シシィ街道
・ グドゥルー宮殿
・ ラーザール馬術公園
・ エステルゴム
・ ヴィシェグラード
・ マーチャーシュ王宮
・ ホッロークー
・ ティハニ
・ フェルヴィデーク国立公園
・ ダヌビウス スパリゾート
・ LISZKAY
・ ビストロ・マールガ
・ ボック・ビストロ・バラトン
・ パンノンハルマ
・ 修道院図書館
・ セーチェニ温泉
・ ヘーヴィーズ温泉湖
・ 洞窟温泉
・ トカイ・ヘジャイヤ地域
・ ラーコーツィ・ピンツェ
・ ディスノークー・ピンツェ
・ アンドラーシ・レジデンツィア
・ マード(トカイ)
・ エルシュー・マーディ・ボルハーズ
・ ホテル「ボトリティス」
・ アスーハーズ
・ LOTポーランド航空
・ フェレンツ・リスト国際空港
【 取材協力 】
ハンガリー政府観光局
LOTポーランド航空