18. トカイワイン紀行 ≪後編≫
マードのブティックホテル「ボトリティス」
マードには、ワイン好きにはもちろん、カップルや家族連れにもうってつけの宿泊施設もある。
貴腐ブドウの育成に欠かせない貴腐菌(Botrytis)の名を冠した「ボトリティス」は、その名の如く貴腐ブドウをモチーフにしたお洒落なブティックホテルだ。
料金もオフシーズンは、朝食付きで22,000フォリント(ダブル/2016年7月現在)からとリーズナブルで、冬でも週末は満室になる日もあるという人気ぶり。セント・タマーシュの「マーディ・ウドヴァルハーズ グストー」も、このホテルから徒歩数分の場所にある。
生活音もほとんどしない静かなマード村。ホテルのテラスに出て、ボ~っと遠くのブドウ畑を眺めながら、陽射しを感じていると、風や木々はこんなにもお喋り好きだったのかと知る。そんな村ではのんびり散歩を楽しんだり、ジャグジーに浸かったり、マードのワインをローカルの料理と一緒に堪能したりしながら、1日ホテルとその周辺でゆったりと過ごしてみるのも、マードならではの過ごし方である。
だが、もう少しアクティブな休日がお好みなら、トカイ村や世界遺産地区のワイナリーに出かけたり、ホテルが宿泊客を対象に提供しているミシュコルツ・タポルツァやシャーロシュパタク、ニーレジハーザにあるワインセラーやレストランなどのツーリスト・アトラクションを巡るミニバスツアー(定員23名)や、ワイン&サイクリングツアー(7~14キロ/最少催行人数10名)などを利用してみるのも良いだろう(詳細は要問い合わせ)。
ボトリティス・ブティックホテル |
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伝統を未来へ!マードの試み
これまで貴腐ワイン(アスー)は、「17世紀のオスマン帝国との戦いで、収穫が遅れたことにより偶然できた」というのが定説であったが、最近見つかった古文書の記述によると〈トカイの貴腐ワインは、1571年にはすでに造られていた〉。つまり、単なる偶然の産物ではなく、その歴史もさらに古いことになる。
資料館といっても、そんな堅苦しいものではない。シンプルでスタイリッシュな館内には、畑の手入れから貴腐ブドウの収穫までゲーム感覚で体験できるインタラクティブな展示も施され、子供から大人まで楽しめるようになっている。実際にチャレンジしてみると、これが案外難しくて楽しい!
館内は、どこに目をやってもブドウばかり。貴腐ブドウやワインが、マードの人々にとってどれほど大切で、身近な存在なのかが伝わってくる。「アスーハーズ」には上階にレストランとバーカウンターも併設され、歩くと音がする階段を下りた地下に、まるでシェルターのようなモダンなセラーがある。
村全体で様々なことに取り組んでいるマード。〈ハンガリーの宝〉ともいえるトカイワインを伝承すべく、専門の学校の設立など、後継者育成のための教育にも乗り出している。マードの試みは、未来へとつながっている。
アスーハーズ |
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グルメ、芸術、歴史、癒しなど、一口に〈旅のテーマ〉といっても様々だが、そうした要素を十二分に満たしてくれるハンガリーは、〈至極の休日〉を過ごしたい大人にとって、理想的な旅のデスティネーションの一つである。
東西の冷戦時代を知らない世代にとって、今のハンガリーで見たり体験できる事は、すべて当たり前のことかも知れない。だが、社会主義体制がどんな国家かを知る世代にとっては、それが歴史ある聖堂であれ、お洒落なカフェやレストランであれ、ブドウ畑であれ、そこに至るまで苦しい時代を生き抜いてきた人々が流してきた涙や、その努力が並大抵のものではないことが、きっと理解できるだろう。
ハンガリーを旅していると、壮大な歴史に感嘆の声をあげ、美味しいワインや伝統料理に満面の笑みを浮かべ、時にその裏に秘められた人々の想いや努力に心震え涙する。だからなお、筆者はこの千年王国の歴史や文化、そして人々に強く心惹かれる。
若者がちょっと背伸びしてみた旅も〈大人旅〉には違いない。もちろん、それを否定するつもりはないが、〈千年王国ハンガリー〉では物事をより深い視点で捉えた、〈濃厚で成熟した大人旅〉を楽しんで頂きたいと思う。
次回は「ハンガリーへのアクセス」
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