ヴェネツィアの風薫る港町、ピラン
ハプスブルク家ゆかりの塩
イストラ半島の文化遺産といえば、やはり第一に挙げられるのが「塩作り」だろう。
ヨーロッパでは先史時代から塩が使われていたことがわかっているが、中世以前から塩は当時は塩を「白い黄金」と呼び、金と同等の価値で取引していた。
13世紀末からオーストリア帝国の支配者となったハプスブルク家は、ザルツブルクやハルシュタットにある塩坑を直轄地とし、塩の交易で莫大な利益を得ていた。かつて同家に良質の塩を献上していたピランにある「セチョウリェ塩田」も然り。様々な面でハプスブルク家から手厚い保護を受けていたという。
スロヴェニア政府から自然公園の指定を受け、国際的にもラムサール条約によって保護された地域にある「セチョウリェ塩田」の広さは750ヘクタール。危機に瀕している希少動植物の生息環境や自然界を崩さないため、この塩田では今もなお伝統的な用具を使用し、手作業で産出している。塩田内には、かつて使用されていた塩田小屋も残されている。
塩田の表面に黒く見えるのは藻。藻はいろいろな菌を食べ塩田をきれいにする、という先人の知恵が活かされている。これらの藻は別の溝で発生させ、それを塩田に塗りつけている。この塩田に指一本入れただけで、そこからは5年間は塩が採取できなくなるという徹底ぶりで、気象条件により全く採取できなくなることもあることから、産出量もその年によって大幅に異なる。
塩は16項目からなる製造工程で分類されているが、精製もヨード処理も行わず、風車を使ってくみ上げた海水を塩釜で炊くこの塩田の塩は「天日」に分類されている。
塩田では、無風で穏やかな日差しの強い真夏の3時間に、ごく薄い層が作られる。濃縮された海水の表面にできるこの結晶は、強い風や雨が降ればたちまち消えてしまうことから「塩の花」と呼ばれている。
ミネラルを豊富に含んだこの「塩の花」は、海塩なのにまったく舌に苦味は残らない。むしろ、まろやかな甘ささえ感じる。まさに極上の味わいだ。
中でも、繊細な結晶の味と香りが料理を引き立ててくれる「塩の花」やフラワーソルトチョコ、にがり成分に富んだ「ピランソルト」、料理の下ごしらえなどにも適した「トラディショナルソルト」、石鹸、スパソルトなどが売れ筋のようだ。
「塩の町」とも呼ばれるピランでは、5月になると塩作りのシーズン到来を祝う「塩祭り」が開催されている。
期間中、タルティーニ広場には特産物や絵画、アクセサリー、骨董品を売る屋台が並び、クラッシックカーなども登場。また、オープニングセレモニーでは、中世の衣装を身にまとった人たちのパレードや、ミニコンサートなども催され町は華やぐ。
【取材協力】
スロヴェニア政府観光局
トルコ航空