美食の王国、スロヴェニア

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ピランにあるレストラン「カーザ・デル・サール」



これまでざっとスロヴェニアの見どころを紹介してきたが、忘れてはならないのが食だろう。
スロヴェニアには「人は食なり」という諺があるが、スロヴェニアでは芸術や文化と同様、食においても豊かな文化が育まれてきた。代々受け継がれてきた伝統料理に、新たなテイストを加えた創造性に溢れた料理も数多く存在する。

「人々の心を開くには、まずはその腹を満たすことから。」

それでは、この国に伝わるもう一つの諺に倣い、スロヴェニアの食事情をざっとご紹介することにしよう。


 スロヴェニアを食べる!


アルプスの山小屋をイメージさせる「スカルッチナ」

アルプス、アドリア海、パンノニア平原、カルスト地域が出会うスロヴェニアでは、食を基にした24の地域(資料提供:スロヴェニア政府観光局)に分けられている。郷土料理の数は170種類。これらはスロヴェニア食文化の礎となっている。また、原産地や地理的表示、伝統的評判、品質に基づいて保護されている特別農作物や食品もたくさんある。

スロヴェニアでは、ドイツやハプスブルクの影響を強く受けた内陸部と、イタリアの影響を受けたアドリア海沿岸部では、その料理の味もスタイルも大きく異なる。
清流の多いスロヴェニアではどの地域であっても比較的多くの魚料理が味わえるが、体力勝負である酪農や農業が盛んな内陸部では肉料理が主流。一方、沿岸部では当然のことながら、地元で水揚げされた新鮮な魚を使った料理がより多く食されている。
また、石灰質の土地が多いスロヴェニアには、日本人にも馴染み深いそば粉を使った料理も多く、バターを付けて食すスロヴェニア版「蕎麦がき」もある。

スープ料理の種類も豊富で、リュブリャナ近郊のヴォディツェという町にある「スカルッチナ」というレストランでは、コース料理の中に3種類のスープが含まれていたのが興味深かった。最初のスープはシンプルな具材のコンソメ、2番目がほうれん草が入った緑色のスープ、そして3番目に供されのは少しとろみのかったボリュームのあるスープだった。この最後のスープは飲むと満腹になって胃袋ががんじがらめになってしまうことから、「囚人のスープ」と呼ばれているという。


    

伝統的なソーセージの盛り合わせ / どっしりとお腹にたまるその名も「囚人のスープ」 / 沿岸地域の洗練された盛りつけ



例を挙げれば切りが無いスロヴェニア料理だが、特筆すべきは豚肉料理。スロヴェニアでは生産方法が維持ている伝統的な豚肉製品が数多く存在し、豚の内臓にソバと粟の実を加えたソーセージ、トラチェンカというアスピック、フライされた血などもある。もちろん、カルスト産の生ハムもスロヴェニアを代表する食品だ。

スロヴェニアでコーヒーといえば
トルココーヒー

リュブリャナの旧市街にある「ソコル」というレストランには、米入りの黒いソーセージ「カルバビツァ」、ブラダ産白ワインを使って炒めたソーセージ「ペチェニツェ」、ロース肉を、ジガンツィ(ポレンタ)やカブのバター添えなど、スロヴェニアの農家の伝統料理をワンプレートに集めた「Kmečka pojedina(農民の祝宴)」というメニューがある。

スロヴェニアはまた、デザートや伝統菓子も豊富だ。地理的な条件もあり、トルコから伝来した菓子も少なくない。
ドイツ語圏の定番デザートとして知られる「アップルシュトルーデル」は、実はトルコのバクラヴァに由来した菓子で、それがバルカン半島を経由してハプスブルク家の食卓に持ち込まれた。だから、この国に来てアップルシュトルーデルがドイツやオーストリアのデザートと言うのは、彼らにとっては全くもって失礼な話なのである。
コーヒーもここでは「エスプレッソ」ではなく、小鍋で煮出す「トルココーヒー」が一般的だ。

余談だが、スロヴェニアでは伝統的に十分に加熱されていない肉を食べる習慣がない。
そのためレストランでステーキをオーダーすると、ほとんどの店が火のしっかり通ったウェルダンの状態で提供される。日本とは肉質も異なることから、そうした場合には日本人にはどうしても肉が固く感じられてしまう事がある。なので、もし肉の固さにこだわりがあるのであれば、オーダー時にきちんと焼き加減を伝えることをお奨めする。

朝が早いスロヴェニアでは午後3時半頃からレストランへやって来て、ゆっくり食前酒やワインを味わいながら夜遅くまで食事を楽しむ人も少なくない。そうした食文化や時の流れも、スロヴェニアならではの贅沢な風景といえるだろう。



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